三嶋亭
三嶋亭(みしまてい) 2008/05/15訪問
葵祭を堺町御門の前で見終えた後、富小路を南に下り三条通に出る。12時少し前に三条通と寺町通の角にある三嶋亭に入る。現在は寺町通と三条通のアーケードに囲まれているため、建物は壁面しか見ることが出来ないが、明治の名残りをとどめるガス燈がこの店の歴史を語っている。
江戸時代まで肉食はタブーとされていたが、幕末となると長崎などから徐々に流入していた。そのような時代に三嶋亭の初代三嶌兼吉は妻と共に長崎で牛鍋を学んだ後、明治6年(1874)現在の寺町通三条角で三嶋亭を創業している。この時期、寺町通の三条から四条にかけては京の文明開化の中心地となり、西洋菓子店や写真舘、見世物小屋などが建ち並ぶ繁華街として賑うようになったと言われている。その長崎に牛肉の調理法を学びに行ったわけである。
三嶋亭の公式HPでは触れられていないが、兼吉は妻てい はさる公家に仕えていたが、二人は御法度を破るかたちで相愛の仲になり、本来なら手討ちになるべきところを、主人の計らいによってひと包みの金を渡され、放免されたという記述もある。いずれにしても宮廷とともに多くの公家が東京に移り住む中、三嶋夫妻は京都に残り三嶋亭を開いたこととなる。
まず昭和初期より使われている電熱器の上で、八角形の鍋を充分に温める。電熱器は炭火に近い熱が得られるということで採用されたらしい。次に砂糖を薄く広げ、その上に人数分の霜降り肉を並べ、割下をかけて焼いてから肉を一枚食べる。その後に通常のすき焼きと同じように、葱や糸こんにゃく、豆腐などの具を入れ、肉とともに焼いて食べる。このように三嶋亭のすき焼きは、創業以来上記のような手順で調理されている。
三嶋亭では肉は○○産肉とは明記していない。丹波・但馬地方を中心に全国から選りすぐりの和牛肉を仕入れ、常に最上級の牛肉を賞味することができるようにしている。この厳選された牛肉を三嶋亭独自の方法で熟成保存し、その一頭一頭の牛肉のよい熟成状態の頃に解体調理が行われる。
三嶋亭のメニューには、すき焼きの他に、オイル焼き、水だき、そしてみぞれ鍋と呼ぶしゃぶしゃぶが載っている。また店頭では精肉や牛肉しぐれ煮とともに本田味噌本店の味噌を使った牛肉味噌潰も扱い、様々なかたちで牛肉の美味しさを存分に楽しめる料理店となっている。明治、大正、昭和、平成と現在は5代目がその味を守り続けている。
関東では分からないが、関西の人にとっては三嶋亭のすき焼きは特別のものであるようだ。確かに価格もなかなかなもので、今回は昼なので安いコースを利用できたが、夜のみであったら伺うことを躊躇ったかもしれない。特に肉の柔らかさについては上記の熟成に特別な技術を持っていることが良く分かる。どうもこの頃は、高級な牛肉=最上の牛肉というイメージも強いが、しっかりした仕事こそがそれを活かしていると考えるべきだろう。おそらく一度この肉が好きになったら他の肉は食べられなくなるだろう。そのようなことをどちらかのカキコミで見かけて事があるが、まさにそのとおりだと思う。
さて今回は最初に昼のコースですき焼きを頼むとともに、個室もお願いした。個室料金として別途1000円必要となるが、追い込みの喧騒な雰囲気から逃れることが出来る。また昼のコースでは仲居さんの手を煩わせずに自分で調理を行うこととなる。それが格安の仕組みであろう。しかし初めての来店であることを話し、最初の部分だけはお願いしてしまった。これが個室のメリットかもしれない。
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