瓢亭
瓢亭(ひょうてい) 2008/05/12訪問
無鄰菴と細い道を隔てて瓢亭が隣接する。
瓢亭の創業はおよそ400年前といわれているので江戸時代の初期となる。南禅寺の総門へ続く松林の参道に面する南禅寺総門外松林茶店、いわゆる腰掛茶屋としてのれんを掲げたのが始まりと伝えられている。
南禅寺 聴松院の項で記したように、花洛名所図会では湯豆腐の丹後屋とともに南禅寺総門外松林茶店として図会で紹介されている。建物の配置も現在に近い形で描かれているように見える。また図会には、丹後屋に続いて以下のように記されている。
「瓢亭の煮抜玉子は近世の奇製なりとて、ここの酒客あまねくこれを食悦す。夫豆腐は夏の茄子、冬の大根にも勝りて、四時ともに風味を違へず。形方にして種なく福分を調へ、所謂精物の随一たり。又■卵は春の桜鯛、秋の紅葉鮒にも超へ、河海のしけを知らず。形円くして骨なく腎精を健にす。頗る生物の最上といふべし。実や方円陰陽の味ひ、いづれも無双の料理の塩梅、老若男女のけじめなく、皆歓びの色かへぬ松のはやしに千代かけて、古今の名物両店の繁昌はこれも花洛の一奇といふべし。」
現在の瓢亭は本館と別館に分かれている。本館は無鄰菴に隣接する。裏千家今日庵の庭師を務める植熊が手がけた庭を中心に、瓢亭創建時から伝わる「くずや」と呼ばれる四畳半と二畳台目の茶室、明治中期に移築された四畳半の探泉亭を含めて4棟の独立した茶室と離れ座敷で構成されている。くずやとは草葺の屋根のことを意味するらしい。池泉には無鄰菴から暗渠を伝い琵琶湖疎水が流れてきている。
そして参道に面しては構えた門もなく、頭が当たるのではないかと思うほど低く抑えられた軒の下には床机に煙草盆、脇には茶壷 水がめ置かれ、壁には古びたわらじが掛けられている。この地は南禅寺の門前でもあるが、京の三条大橋の入口にも当たる。壁に掛けられたわらじは京に入ってくる旅人を迎えるための茶店のしるしであったのかも知れない。
瓢亭本館では懐石料理が供されるが、別館では朝がゆと松花堂弁当が頂ける。
松花堂弁当には名物の瓢亭玉子、お弁当とは別に出される鯛のお造りの向付、そして季節の食材を活かした煮物などがあり、お椀は白味噌汁で少し熱いと感じられる状態でご飯とともに運ばれてくる。
朝がゆは明治の初年頃から始められた。祇園で夜遊びした旦那衆が芸者さんを連れ立っての朝帰りの途中に、まだ寝ている主を起こして作らせたという話しが世間に広まったためという。
この記事へのコメントはありません。